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素直になれなくて
第3章 田坂くん
「悠里、体調いいなら、外回り行くぞ!」
フロアに戻ると、浅井から声が掛かる。
「了解!」
「今日は、飯島家具、決着着けたいなあ。」
「田坂くん、この前頼んだ家具の発注書出来てる?」
「はい。」
そう言って、田坂はデスクから書類を探して悠里に渡す。
「ありがとう。」
悠里は書類を受け取ると、優しく笑い、浅井と外回りへ出かけて行った。
「ねえ、悠里と何かあった?」
田坂はビックリして声の主へ顔を向ける。恵美だった。
「別に、何も……」
「ふーーーん」
恵美はニヤニヤしながら、真っ赤になる田坂を見ていた。
麻里は、そんな光景を不服そうに見つめていた。

「美味い!」
浅井は、目の前に積まれたパンケーキを頬張っていた。
「浅井、ホント甘いの好きだね。」
色々と迷惑を掛けた浅井に、悠里はパンケーキをご馳走していた。
「悠里のも一口くれ!」
はははっ、と苦笑いしながらお皿を差し出す。
「よく太らないね。」
「あれだけ、外回りしてたら、太る暇ないだろ?」
悠里はもっと食え!この前軽くてビックリしたぞ?
浅井の言葉に、悠里は頬をピンクに染めた。
浅井はパンケーキを食べ終わって、コーヒーを飲むと、満足な顔を悠里に向ける。
「お腹いっぱいだ。これで飯島家具で嫌味言われても大丈夫だ。乗り切れそうな気がする。」
「女子みたいな発言だね。」
悠里はクスクスと笑った。
ふと、浅井は真面目な顔をして悠里を見た。
「アイツ、どうするんだ?」
田坂だよ…と言った。
「待ちますって言われたけど…」
悠里は、俯いて応える。
「俺に遠慮するなよ?」
「ん?」
「好きになったなら、迷わず飛びこめって言ってるんだよ。」
「浅井……」
悠里は瞳が潤んでゆく。
「泣くなよ。」
「俺はいざとなれば、会計の陽子ちゃんも受付の原ちゃんもいるからな?」
悠里は、泣き笑いしながら、浅井の深い優しさを目一杯感じた。
「だから、俺に遠慮はするなよ?」
「うん。わかった。」
「だからって、俺を選ぶなって言ってるわけじゃないんだけどな?」
悠里は、笑顔で答えた。
「それも、わかってるから。」
浅井はそう言うと、コーヒーを飲み干した。
「さ、行こうぜ。若社長、遅れるとうるさいから。」
「はい!」
そう言って、2人は店を後にした。
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