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素直になれなくて
第1章 新入社員
「お待たせ。」
壁にもたれて待っていた浅井に声を掛けた。
「なんでお前なんだよ?」
「ん?」
「新人教育。」
ああ、と悠里は言うと、エレベーターのボタンを押した。
「事務の流れと、営業の流れと両方知ってるからって言われた。」
悠里は、元々事務の担当だったが仕事ぶりを認められ、開発営業部に呼ばれたのだ。
「でもさ、わざわざ忙しいお前にしなくても。」
浅井は何となく面白くない。
「ま、いいんじゃない?結局誰かがやらなきゃいけないんだから。」
「お人好し……」
「わかってる。」
「でも、それがお前の良い所だからな。」
そう言って、浅井は悠里の頭をワシワシ撫でた。
「部署替えじゃなくて良かった。」
浅井は、悠里を優しく見つめた。
「浅井?今日、なんか変だよ?」
浅井は顔を赤くすると、慌ててそっぽを向いた。
悠里の鈍感……
浅井は心の中で呟いた。

各店舗を回って、家具の不具合や雑貨の不足、要望を聞いてゆく。新店舗の打ち合わせ、オーナーになる人との面接、新たに入れる家具店とのやり取りなど、仕事は多岐にわたる。
悠里と浅井が手掛けてきた店舗は、どの店舗も良い売上を上げていた。それは悠里の人を見る目が長けている事とインテリアのセンス、浅井の長年培ってきた広い人脈と何でもこなす行動力が功を奏していた。
「悠里、そろそろ飯にしない?」
「うん、いいよ?」
そう言って、行きつけの定食屋に入る。
「はあー疲れたぁ。」
浅井は溜息と共に両手を上げて伸びをした。
「ははっ、お疲れさまでした。」
「午後はどこ行くんだっけ?」
「飯島家具。三軒茶屋の新店舗の家具の件。」
浅井が、急に不穏な表情になる。
「あそこの若社長、お前に色目使ってるよな?」
「え、そう?」
「気付いてないのか?結構露骨だぞ?」
「ああ、確かに今度2人っきりで食事をって言われたな…」
「はあ?」
ゴホッゲホッ
浅井は飲んでいたお茶で噎せてしまう。
「行くのか?」
「まさか!やんわり断ったよ。」
「気をつけろよ?いざとなれば、あそこの家具諦めたって良いんだ。」
「嫌だよ。若社長はともかく、あそこのデザイナーさんの家具は本当に絶品だから。」
浅井は、ため息を吐いた。
「お前一旦決めると頑固だからなぁ…」
「すみません。」
「そこは、俺の腕の見せ所なワケだよな。」
「よっ!浅井先輩!頼りにしてます!」
2人でクスクスと笑い合った。
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