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素直になれなくて
第5章 恋人
飯島家具に到着した浅井と悠里は、応接室に通されて、暫く待たされた。
外で職人と若社長が何やら揉めている。
応接室に若社長がイライラしながら入って来ると、ドカッと椅子に座った。
「あの、発注書の件ですが、こちらからお渡しした物を確認させて頂けないでしょうか?」
悠里は、真剣な表情で、若社長に申し出た。
「どういう事かな?」
「当社の控えは、机と椅子の数がこちらの当初の予定の数になっていたので、こちらの物だけ違って居たのか、確認を。」
「わかったよ。」
そう言うと、若社長は書類のファイルから発注書を出して来た。その発注書は、手書きで直されていた。
「3日前に、田坂くんから電話を貰って、発注書の数字を直すように依頼されたんだ。」
「なっ!」
立ち上がろうとした浅井を悠里は制した。
「そのような電話は、入れて居りませんが。」
「じゃ、私が嘘を付いていると言うのか?失敬な!」
「申し訳御座いません。」
悠里は深々と頭を下げた。
「私共は、御社の家具を職人さんの愛情溢れる作品に心から感動して、当社の店舗に是非使わせて頂きたいと以前からお話をさせて頂きました。」
ドアの外で、職人たちが聞いている。
「不足分の家具を、卸して頂くことは出来ないでしょうか?」
「そんな事言っても、急に作れないよ。」
「若社長!」
職人たちが、ドアを開けて飛び込んできた。
「お前達、なんだよ?首になりたいのか?」
悠里と浅井は目配せをして、浅井が席を立つと、職人達をドアの外へ促した。
「家具を卸して頂ければ、そちらの条件を飲みます。」
若社長は、ニヤッと笑った。
「悠里ちゃんは物分りが良いね?」

悠里が、応接室から出てくると、浅井と職人達が駆け寄って来た。
「悠里さん、すみません。俺達…」
悠里はニッコリ笑って、職人達を見つめた。
「在庫はあるそうだ。ただ、卸すには若社長の許可が…」
「明日、17時に品川プリンスで待ち合わせに…」
浅井の顔色が変わる。
「悠里…」
「若社長の条件は食事に付き合う事…」
浅井は悠里の腕を掴んだ。
「本当にそれだけか?」
「だよね…それじゃ済まない気はするけど…」
「断われよ?」
「浅井…」
職人達の顔を、悠里が見渡す。この人達だって、一生懸命作ってくれた作品が並ばないのは悔しいはず。
「わかったよ。とりあえず、社に帰ったら作戦会議な?」
そう言って、飯島家具を後にした。
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