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素直になれなくて
第7章 事件
里内が行方をくらましてから1週間。
悠里は、田坂の部屋で寝泊りをしていた。
「悠里、行くよ?」
「うん、今行く。」
ジャケットを手に、玄関に歩いて来る。
「可愛い、その髪型オレ好き。」
「そうなの?」
肩より少し長い髪の毛先を少し巻いている。
「全部、可愛い。」
そう言って、悠里の頬にキスをした。
真っ赤になって、照れる悠里を優しく見つめた。

会社に着いて、中央の階段を上っていた時だった。不意に人が飛び出してくる。
その人影が、悠里の前を歩いていた田坂にぶつかり、次の瞬間あろう事か田坂を階段から突き落とした。
「うわっ!」
田坂は、体勢を崩して階段から落ちそうになる。
「危ない!」
悠里が田坂を支えようとした。

ガタガタガタガタっ!

「キャーっ」
階段の下で次々と悲鳴が上がる。
たまたま出勤して来た浅井は一部始終を見ていた。
顔面蒼白で駆け寄ってくる。
「っ…痛っ…」
田坂は肩を抑えながら起き上がる。ふと掌に生温かい物が触れた。
「おいっ!悠里!」
その浅井の言葉に、ハッとした。
「悠里…なん…で?」
田坂の下に悠里が倒れている。
田坂の手に触れたのは悠里の血だった。
頭から出血して、その血はどんどん広がっていった。
「おいっ!誰か救急車!」
「今、呼んだ!」
恵美が駆け寄ってくる。
「田坂くんは、大丈夫?」
「オレは…大丈夫で…なんで…」
田坂は混乱していた。
「悠里がお前を庇うようにして落ちたんだ。」
浅井に言われて、愕然とした。
階段の上では、警備員が田坂を突き落とした犯人を取り押さえていた。
「麻里ちゃん…」
恵美は階段上で警備員に抑えられている里内を見つけた。
里内もまた、放心状態になっていた。
恵美は階段を駆け登ると、里内に平手打ちをかました。
バチン!
「あんた、何してるの!」
「私…」
「悠里が好きなら、どうして悠里の幸せを願えないの!馬鹿っ!馬鹿っ!」
恵美はボロボロ泣きながら、里内の肩を揺すった。
「ごめんなさい…」
里内はその場に泣き崩れた。
「救急車来たぞ!」
悠里は救急隊に担架で運ばれる。
「お前も乗れ!」
そう言って、田坂を救急車に乗せる。
「浅井くんも乗って?その方が良いから。私は部長に報告して、後から駆けつけるから。」
「おう、分かった。」
「何かあったら、すぐに連絡して!」
その声と同時に、扉が閉まった。
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