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素直になれなくて
第7章 事件
「ようおはよう。」
「あ、おはようございます。」
浅井から声を掛けられ、田坂は挨拶を返した。
「肩、大丈夫か?」
「はい、だいぶ腫れも引いて…」
あれから、2週間が過ぎていた。
社、始まって以来の大事件は、瞬く間に噂が広まり、大騒ぎとなった。
初めは、痴情の縺れみたいに言われ不快に感じていたが、部長が中心となって、きちんとした情報を流してくれたおかげで、変な噂は無くなりつつあった。
悠里が入院しているので、必然的に浅井は田坂と組まされ、男同士かよ?色気ねぇと文句を言いながらも、なかなか良いコンビになっていた。
「悠里はどうだ?」
「昨日、やっと頭の包帯が取れて…」
「そうか、良かった。じゃ来週辺りからかいに行くか?」
「そうしてやって下さい。浅井さんが来ないって寂しがってました。」
「は?優しい彼氏が毎日行ってるんだろ?贅沢な。」
「浅井さんの毒舌が無いと、物足りないんじゃ無いですか?」
浅井は、はははっと声を上げて笑っている。
「浅井さん、オレに気を遣って見舞い来ないんですか?」
浅井は急に黙って、田坂を見た。
「馬鹿か…お前に気なんか使うか……。なんか嫌なんだよ。弱ってる悠里を見るの……」
浅井は冷静を装っていたが、悠里のあの出血した様子が、今も夢に出てくる。
「怖かったんだよ…アイツの身にも、こういう事が起こるって事にビビった。もしかしたら、居なくなってたかもって……」
田坂は、黙って聞いていた。
「アイツが生きてる事に、泣きそうだから…」
浅井は、鼻をすすった。
「悠里の前で、泣きたくないんだよ。」
田坂はクスクス笑った。
「意地っ張りなんですね?浅井さん。」
「ほっとけっ!」
浅井は、少し顔を赤くしながら言った。
「それに、羨ましかった。」
「え?」
田坂は、浅井を見た。
「命懸けで守られたお前が、羨ましかった。」
浅井は、田坂の頭をワシワシと触る。
「お前、最近色々変な事考えてるだろ?」
「自分の所為で、悠里が怪我したみたいな。」
田坂は、何でもお見通しの浅井に苦笑いした。
「命懸けで守られたんだぞ?それだけお前を失いたくなかったって事だろう?」
「浅井さん…」
「落ちていく瞬間、お前を庇った悠里を見て、本気でお前を好きなんだなって…チクショウっ!」
田坂は浅井に、思いっきりデコピンされた。
「自信持て!この野郎!」
「浅井さん、カッコ良すぎて嫌いだ…」
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