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第8章 波乱と別れ

悠里は、店の外に出て、田坂の到着を待っていた。
「もう、来るよね。」
時計を見つめて、呟いた。
「誰が、来るの？」
背後で声がして、驚いて振り返る。
「あ……」
「お久しぶりです。悠里さん。」
悠里は、凍りついた。
「若……社長……」
「この店に来ると思って、ずっと待ってたんですよ？招待してくれると言っていたのに、あれから連絡がなかったので。」
飯島若社長のその心無い笑みに、悠里は後ずさった。
「あの……」
次の瞬間、凄い力で腕を掴まれた。
「ちょっと！離して下さい！」
「大人しく、ついて来て欲しいなぁ……」
引きずるように、悠里を路地裏に連れて行った。

「全く……あれ程ロールケーキの件は俺から話すって言っておいたのに……」
浅井に先を越されて、腹を立てながら、田坂は三軒茶屋店を目指していた。
数メートル先に悠里を見つける。
「あ、悠里っ！」
次の瞬間、田坂は心臓が止まりそうになった。
飯島若社長が、悠里の腕を掴んでいたからだ。
「悠里っ！」
名前を呼びながら、全速力で悠里の元へ走った。
「こらっ！悠里を離せっ！」
飯島若社長の肩を掴んで、悠里から引き離そうとした。
「ヒロくんっ！」
田坂は、突然、腹部に強烈な痛みを感じた。
なんだ……これ……
「あ……ゆ……うり……」
飯島若社長は、ニヤリと笑った。
「君は、いつも邪魔なんだよ。田坂くん。」
そう言うと、田坂の腹に刺さったナイフを抜いて、田坂に向かって何度も振りかざした。
「やめてっ！いやぁーーっ！」
悠里の悲痛な叫び声が、響き渡った。
飯島若社長は、悠里を無理矢理担ぐと、路地裏を歩いていく。
「ヒロくんっ！ヒロくんっ！嫌っ！」
田坂は、その場に崩れ落ちた。
周りの人達が悲鳴をあげる。
田坂は、腹を刺され、倒れた場所に血の海が広がっていた。
悠里は、飯島若社長の肩越しに、崩れ落ちる田坂を見て、悲鳴を挙げた。

なんで、僕が岡山に？
親父に何度も、考え直すよう願い出た。
しかし、何度頼んでも、帰って来る答えは同じだった。
僕はただ、悠里さんを手に入れたかっただけなんだ。
彼女と食事をして、彼女をこの腕の中に抱きしめたかった。
今までの女性達は、皆あっという間に手中に落ちた。
彼女は……アプローチすればするほど、すり抜けていく。
これが、恋の駆け引きなのか？
味わった事のない高揚感が、僕の身体を駆け巡った。