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飼育✻販売のお仕事
第14章 夏季休暇
「ごめんね。いつもさぶちゃんが無礼な態度をとって」
「りんりんとこの執事さん、相変わらず濃いねぇ。それだけ君が大事なんだな。三郎さん見ていたら、お父さんみたいだ」
「まさか」
「りんりんを追いかけて家出までしちゃうんだもん」
「お父様に愛想尽かしただけだよ。それに」
「それに?」
「王子は、いつかご主人様になるんだよ。さぶちゃんの」
「っ、……き、気……早いよ。……」
三郎がりつきの後に続いたのも、肯ける。
第一、父、真正は、中身がない。
事実、彼は昔、体裁ばかりを考えるくせに、大変な不倫騒動を巻き起こしたのではなかったか。
りつきは小学生だった。当時の記憶は曖昧だ。
ただ、明るい母親がやけに荒れていたのだけは覚えている。りつきは幼心ながらに母親の苛立ちに──…人間のもたらす感情的な毒にやられ、泣いて周囲を困らせていた。母親だけが悲劇のヒロインだったからだ。誰もりつきを構わなかった。
時は流れ、真正が囲っていた相手の女は自ら命を絶った。真正が彼女に暴力を振るったらしい。家政婦達が噂していた。
「王子はどう?最近」
「うーん」
「私までシフト制の職場に入っちゃって。家じゃさぶちゃんの監視があるし、ますます会いにくくなったね」
りつきの片手が、ひとりでに浩二のそれを求める。
ベランダを囲う柵にかかった二つの手が、一つに重なった。
浩二の白い横顔を夜闇に引き立てるのは、星の光か、街灯か。なめらかな金髪は月の色を映したようで、アーモンド型の目許にきらめく穏やかな黒は、とてもこの世の人間とは信じ難い。
そう、人間、それはとても狡猾だ。
りつきにとって悪人など映画やドラマの世界の住人だったが、父親を始め、「ふぁみりあ」を訪うVIP会員らの所業を振り返ると、それだけリアリティに富んだ人種もいなかった。