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飼育✻販売のお仕事
第14章 夏季休暇


「私が気を抜いたからいけなかったんです。お父様もさぶちゃんも、私の気持ちなんて考えてない。うわべばっかり。昔からそうなんです。あの同級生は風紀が悪いから友達にもなっちゃダメだとか、あんなやつと付き合うから、私のお洋服が派手になっていったんだとか」

「それは、偏見ね」

「今度ばかりは従えません。王子は私の全てです。あんなに素敵な人、いないのに……」



 いっそ悲劇だ。くだらない。


 沸き立つ慨嘆を押し隠し、里子はありきたりな定型文をかき集めてりつきを労った。


 りつきには、里子に暗い記憶を蘇らせる少女の面影がある。



 鈴花の自害が報らされた時、中心になって笑った子供──…。家政婦らの輪の中で、彼女らより優位に立つ令嬢は、悪人は死んで当然だと喜んだ。



 もっとも、他人の空似だ。

 他人の空似だからこそだ。

 りつきのようにいたいけな女が、少なくとも里子にとって何ら取り柄もないような男に夢中になっている。この現状に、虫酸が走る。


 ただの男嫌い。それは自覚している。


 りつきが欲しいのだとか、悋気だとか、そうした衝動がもたらす衝動はない。


 ただ、男は男に生まれただけで、女を愛し、或いは愛されることが大多数の定義らしい。理由はない。ことわりだというだけだ。そして特別な不都合のない以上、つがいであれば祝福される。


 下劣だ。



「新崎さんが、馬沢さんをどれだけ好きか……家出までしたんだもの。きっといつか分かってもらえるわ」

「そうでしょうか……」

「どれだけの学歴や富があったって、それがいつまでも礎になるとは限らない。それに引き換え、彼は貴女を愛する気持ちに誰よりも優る。ご両親がいくら古い考えの人でも、心を動かされなければおかしい」

「そうだと良いんですけど……。でも、有難うございます。店長に聞いてもらってすっきりしました」

 りつきの明るいかんばせが、くしゃりと崩れた。


 本心にもないことを口にする。こうした場面の口先ですら、声にすれば真実味を帯びるのだから、人間社会が譎詐にまみれるのも無理はない。
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