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飼育✻販売のお仕事
第14章 夏季休暇
* * * * * * *
葉月の始め、高原の夏はさばかり涼しく、澄んだ空気はその景観をより清冽に見通せた。
久しい土地の土を踏み、さしずめ時代の化石と見なせる駅を降りると、父、邦広がまおを迎えた。
「はよ」
「おはよ」
「久し振りだな」
まおは父親の足許で尾を振る二匹の犬のリードを預かり、代わりにスーツケースを彼にひかせた。
砂利道に沿う町家の窓は風鈴が涼やかな音を鳴らし、営業中の軒先は、かき氷やら綿菓子やら、観光シーズンならではの屋台が出ている。
「二人とも元気か?」
「配偶者に裏切られて、二十年前から寝込んでいます。……って、伝えておいてくれだって」
「はは、その様子じゃ達者だな」
緑が濃密になるに連れて、木造建築の家々がまばらになった。
邦広が暮らしているのは山の麓だ。収穫物の大半を親族だけで分け合う農家やがらんどうな庭を構える邸宅があり、見るからに土地の持ち腐れである。土地の持ち腐れが出来るだけの界隈だから、邦広はここに居を構えたのだ。
「ただいまー」
邦広が錆びた門を開けると、数匹の小動物らがまお達の前に群がった。
邦広は小学校教師が教え子を慈しむような相好を崩し、犬やら猫やらウサギやらの毛並みを乱す。
活気の良い鳴き声が、不協和音のオーケストラを奏でる。緑の世界に、それは極めて正しい旋律として馴染んだ。