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飼育✻販売のお仕事
第15章 従業員、エスケープ
…──ビアンの人って、何でバイセクシャルが嫌いなの?
青緑の光揺らぐトンネルを歩いていた恋人は、とりとめない口調で話題を変えた。
あれは十五年と少し前の夏の暮れだ。
雇い主の奥方に恋敵を追い出すよう言いつけられた家政婦が、問題の人物に手懐けられるまでは時間の問題だった。
彼女、鈴花は里子が勤めていた屋敷のあるじと友情関係を続けていた。里子は鈴花の言い分から、彼女の良人が不実を犯していないことを報告して、鈴花の追放を免じていた。
あるデートの日、里子は鈴花と水族館を訪ねていた。
平日だった。他に観覧客の姿はほぼなく、暫くは熱心に魚達を眺めていた恋人は、にわかに人間界にその関心を戻したのだ。
レズビアンはヘテロセクシャルの女を好く。そのくせ女にも男にも傾倒するバイセクシャルを、敬遠するきらいがある。
無論それらは一部の例外を除いた場合だ。
里子は自分なりの答えをまとめた。
ヘテロセクシャルの女はヘテロセクシャルでない可能性がある。
教育、文化、環境、社会──…それらは個人の成長に少なからず補翼する。
男を求める少女の多くは周囲の影響を受けている。
アダムとイヴという幻想がひとたび砕ける機会さえ得れば、少女はまことに愛する対象を見極める。
一方で、バイセクシャルは前者に引き換え、酸いも苦いも嚙み分けた大人だ。女も男も知る一部の人間は、ある意味で博愛主義になる。一対一の関係を崇拝している以上、どちらかを諦めねばならない時が訪うのである。
さすれば彼女は、女の方を断念することがある。男にとっても安心していられないケースだが、保守的な人間達や法律が異性カップルをおだて上げる日本では、彼らが若干有利にあった。