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飼育✻販売のお仕事
第15章 従業員、エスケープ
* * * * * * *
昼近くに妹が訪い、菓子やDVDを伊澄にせがんだ。
伊澄はりつきが起臥している部屋を閉めきって、妹──…亜由子に、絶対に開いてはならないと、口を酸っぱくして言い聞かせた。
入念な態度が年頃の少女の好奇心をそそったらしい。両親に似てヘテロ信仰者の妹は、仕舞いに伊澄に男の恋人でも出来たのかと勘ぐり出し、父親には黙っているだの破局しても笑わないだの、ブラウン管を流れる映像もそっちのけで盛り上がっていった。
「鍵、どうすれば良い?オレこれから仕事行かなきゃ。もうちょっといてるなら預けとくけど」
「そしたらお姉ちゃんが帰ってきた時、入れなくない?」
「同居人も鍵持ってるし、問題ないよ」
「ねぇ、だからそれ、どんな人?」
「──……」
ここでりつきの名前を出せば、まるく収まる。
だが、恵果の家の例もある。どこの誰が新崎家と繋がっているか把握しきれていない分、迂闊に話せるものではない。
「お姉ちゃんって、やっぱり……男の人になりたいっていうやつ?」
「全然」
「大丈夫だよっ」
亜由子が操作していたスマートフォンを投げ出して、卓袱台に身を乗り出した。
「あたしそういうの偏見ないからっ、それは……珍しいけど、でもお姉ちゃんが女の人と同居までするって、相当の勇気がいたと思う。大変でしょ?ご近所さんの目とか。でも偏見ないから!あたしそういうの全然理解出来る。相談乗るよ、何でも──…」
「さっきから勘違いしてるみたいだけど、ほんとそういうのじゃないから」