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飼育✻販売のお仕事
第15章 従業員、エスケープ
狭い概念に固執している人間に限って、手当たり次第のものを定義したがるのは何故だ。
母や父も、妹も、結局は伊澄を彼らの視野に認められる範囲にある理屈に当てはめたいだけだ。
家族に限らない。一つや二つの常識しか持ち合わせない人間に限って、他人を理解したがっては、つまずくにつけて宇宙人にでもまみえた態度に切り替わってきたのではないか。
だから伊澄は大学に上がった頃にもなると、一緒にいる分には楽しかったグループの中でそうした話題が出てくる度に、記憶の中の女の名前を全て男に変換して、彼女達と笑っていた。苦痛はなかった。放任されない息苦しさと、彼女らに対する友情は別個だったからだ。
りつきと、同じタチのレズビアンの希実子だけは、オブラートがいらなかった。
何故、りつきなのか。
世間知らずを自覚している令嬢は、他人を攻撃する術も持ち合わせないからかも知れない。無知故に破壊的なところはあるにせよ、りつきのそれは、大の大人が持ち合わせる無知とはまるで違う無垢だった。
そして、りつき自身、伊澄に似ているところがある。
「…………」
…──似ているところが、ある?
「お姉ちゃん?」
「──……」
りつきだけは、好いてはいけない。
それは伊澄の立てたルールで、怯えで、戒めだった。