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飼育✻販売のお仕事
第15章 従業員、エスケープ



「亜由の言う通りだよ」

「──……」

「あの部屋には、大事な人が住んでる。恋人とか、そういうんじゃないんだ。……似てる」

「…………」


 亜由子のスマートフォンが鳴った。

 さっきから頻りとスマートフォンをいじっていた亜由子は、母親と連絡をとっていたらしい。


「お母さん、来るって」

「はっ?」

「お姉ちゃんがいけないんだよー。この前だって折角無職だったのに、一度も帰らなかったから。ああ見えて寂しがってたよ」

「…………」

「それより、すごいよね!つまり彼女さんとは恋人以上ってやつ?お姉ちゃんの彼女さんは、マンガとかに憧れてるのかな。よくあるじゃない、マンガなら恋人以上とか魂の双子ーとか言っても普通だもん。ってか、エッチは指使うの?玩具?ビアンの人って、男の人の下に付いてるやつがいやだから、ビアンになるの?」

「…………」


 大学が夏季休暇中の亜由子は、部活動らしい部活動をしている団体に属していない所以、甚だ暇を持て余している。今の話を打ち切ったところで、そのぽってりとした赤い唇から出るのは流行りの洋服のブランドやらスポーツ選手の名前やら大半を占める。

 伊澄には、話題を転換しても、次のそれを続けてゆける見込みがない。







 夕方、里子のスマートフォンに、今度は伊澄から電話が入った。部屋に家族が来ている、彼女らによる部屋の捜索を防ぐべく、出勤出来なくなったということだった。


「仕方ないわ……。一階だけならともかく、地下の業務まで二人だけじゃ手が回らない。臨時休業にしましょう」

「ふぇっ?!」

「新崎さんには地下の業務も慣れてもらわなければ。チャンスだと思って、今日はそちらに専念するわ」

「…………」


 里子はシャッターを閉めて、レジ上げを始めた。

 りつきに売上管理表を書かせ、一階フロアを点検したあと、階下へ彼女を連れて降りた。
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