この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
飼育✻販売のお仕事
第16章 二人きりで...
悪い女の人、死んで良かったわ。
善良な使用人達の中心で、無邪気に笑った少女の幼い唇に、里子は何を求めていたのか。
十四年前、別離は突然、二人を襲った。
一年と少しの交際の末、里子と鈴花の関係が屋敷の当主に知れたのは、何者かの密告だった。街で会っていたところを見かけた人間がいたらしい。ただ、それが誰かは未だ分からない。
最後の夜、実業家の男は里子に不可解な言葉を投げつけた。
九歳の娘に向ける父親らしい穏やかさは消え、あるのは残酷、根深い悋気──…男の濁った双眸は、定時を過ぎても里子の胸を騒がせた。
急き立てられるようにして鈴花の家を訪った深夜、呼び鈴も、携帯電話も、応答はなかった。
私宅に帰ると志穂がいた。
里子より一年先輩の家政婦であった彼女は、一時期は一緒になって慕っていた若奥の命令にも従えない落ちこぼれを心配して待っていたらしかった。里子は志穂を家に上げ、憂惧や恐怖を吐き出した。志穂は里子を一晩中宥めるのに難儀した。
それから一週間も経たない間に、鈴花の屋敷は売家になった。
噂好きの家政婦達の立ち回る屋敷には、あるじが頻繁に戻るようになった。若奥の表情に以前の健康味が戻るに連れて、ある噂が現実味を帯びていった。
当主の囲っていた女の消息が不明であること、彼女の消えた夜、山奥に彼と彼の部下達がただならぬ様子で入っていったということ──…。
それから先は、家政婦達の憶測だ。
憶測は、あらゆる辻褄が合っていた。