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飼育✻販売のお仕事
第16章 二人きりで...
「胸が痛くて、……だけど、店長がそんなに辛そうに話されたら……私、続きが、聞けません……」
「ああ、そのこと。良いわ。話したくない人には話さないから。それより、……」
りつきになら、話したかった。
話してどうなるものではない。それでももし、りつきが件の少女とは別の答えを持ち合わせていたとする。志穂がおりふしからかうように、里子はりつきをりつきとして見られるようになるかも知れない。もう一度、鈴花に謝れるかも知れない。
「…………」
顔を上げたりつきの顔は、ともすれば何十年も連れ添った姉妹でも見つめる情緒を滲ませていた。
事実、里子はりつきと二ヶ月しか一緒にいない気がしない。
「新崎さん」
里子の腕が、引き寄せられるようにして、りつきの尾てい骨に回る。
利き手をそのおとがいにかけて、従順な顔をもう少しだけ傾けた。
「ん……」
肉厚の花びらに蓋をして、柔らかなそれが里子の唇を包んだ途端、はたとした。だが、里子は抗議を含んだりつきの吐息を塞ぎ続ける。
数秒の後、一つの影は二つに戻った。
りつきは、泣きたがるような顔を里子に向けていた。泣きたがる態度をとっていた。
「何……するんですか……」
「キス」
「私には、王子がいます」
「それが何」
純潔など存在しない。生理学的にはあるかも知れないが、それさえ個人差がある。
仮にりつきのそれが指を入れただけで血を流すくらい脆くても、女の膜とは、古い考えの人間達がただ妄信しているだけの檻だ。
りつきを繋ぐ愚劣な檻──…あるものなら、破壊するのは里子でありたい。