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飼育✻販売のお仕事
第16章 二人きりで...

* * * * * * *


 底知れない焦燥が、りつきをほとばしっていった。


 今に始まったことではない。

 里子に初めてまみえた瞬間、かなしいまで胸がざわついた。
 凛とした落ち着きあるソプラノも、美しい奥二重の影に煌めく目も、たわやかな風を連れる指先も、りつきは里子を知れば知るほど懐かしくなる。


 どこかで会ったことがあるのかも知れない。

 仮定しては、りつきはその可能性を打ち消した。



 りつきには、里子が解らない。





 夜道を歩いて、気が付けば伊澄のマンションに帰り着いていた。

「お帰り」

「ただいま」


 キッチンのテーブルに、夕餉がラップにくるまれて並べてあった。シチューにサラダ、卵焼きという献立は、三郎がこしらえたのではないと見える。

「有難う。お夕飯、作ってくれたんだ」

「ううん。お母さん」

「あ、そっか」



 私室に入ってバッグを置くと、全身鏡に今朝と変わらないりつき自身が映っていた。

 パステルピンクのツインテールに赤いブラウス、さくらんぼ柄のチュチュ、白いレギンスパンツ──…。

 りつきの肩越し、襖の向こうで、伊澄がお茶の準備を始めていた。
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