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飼育✻販売のお仕事
第16章 二人きりで...


「…………」

「何かあった?」

「え……」

「店長に、何か言われた?」

「──……」


 優しい目だ。親友の目。

 性別を感じさせない伊澄の顔はほんのり化粧してあって、りつきの鼓動を仄かに奏でる。


「何で?何にもなかったよ」

「うそ」

「店長、優しいし。私がどんくさくても、そんな……」

「だから言ってるんだよ」

「──……」

「はっきり訊かないと分かんない?何かされた?」

「…………」

 りつきの態度は、りつき本人を差し置いて、その胸裏を暗に示す。


「好きなの?」

「……まさか」

「好きだから言えないんじゃない?」

「──……」


 たとえそうでも、りつきには認められない。


 浩二と過ごした歳月は、里子と過ごした二ヶ月と少しではしのぎ難い。

 りつきと浩二、そして伊澄の三人で過ごしたこの五年間は、なかんずく特別かえがたかった。りつきは浩二のために家を飛び出し、そんなりつきを伊澄は応援してくれている。

 これを幸福と呼ばずに何と呼べよう。
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