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飼育✻販売のお仕事
第16章 二人きりで...
「りん、さ。男じゃなくても良いんだろ」
「え……」
「オレが何でりんを女として見なかったか、考えたことある?」
「…………」
伊澄の口調は、浮気な友人を諌めるそれだ。
だがその眼差しは違う。
伊澄は、時々、こんな風に寂しそうにしていた。そしてりつきも、今の伊澄と同じ顔をしていることがある。
可愛らしい洋服を着て、最愛の人と恋人と呼び合う。
当たり前の本能に従うりつきを、真正は異常者でも見る目で見ていた。りつきを正常と定義づけても、りつきをとりまく正常は、悪影響をもたらす種だと貶める。
理解されない孤独。
否、理解を求めたことはない。共感もいらない。
りつきが真正の生き方を肯定しているように、ただ肯定して欲しかった。
「……りんが、一緒にいて心地良かった。友達として」
「…………」
「良いと思ってた。浩二と三人、それなりに楽しかったからさ。オレは店長みたく男嫌いじゃねぇし。けど、……不安なんだ」
「…………」
「りんが店長に心変わりしたって、帰りたくなければこれからもここに住めば良い。親子喧嘩は、浩二だけが原因じゃないだろ。ただ、一つだけ、言って良いかな」
「っ……」
りつきの息が、思考が、止まった。
真新しい質感が唇を塞いだ。伊澄のキスが、里子の味を塗り替える。
「んんっ」
悲しみが胸をせり上がる。りつきは、それでも伊澄を拒絶出来ない。
唇は不快でしかない。罪悪感がもたらす不快だ。
頭の隅で、里子の名前を呼んでいた。
「…──好きかも知れない」
「…………」