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飼育✻販売のお仕事
第17章 疼く想いを


「つか柚木さん。そろそろ仕事じゃない?」

「おおっ、わたくしとしたことが。……結野様。くれぐれも、お嬢様をお守り下さいませ」

「いや、さっきオレのこと信用出来ないって言ってなかった?」

「この馬鹿よりマシでございます。それでは」

 三郎は、なかんずくりつきには慇懃に挨拶を済ませると、浩二を睨んで帰っていった。

 休日スタイルの浩二の方も、退出の息差しを見せ始めていた。渋りながらも伊澄と友情を修復した彼は、りつきのいるウサギのケージに足を向けた。

「りんりん」

「ひゃあっ!……あ、王子」

「ごめん、驚かせた?」

「うん、ごめん……私の方こそ、ぼーっとしてて……」

 りつきの顔色が、今朝初めてローズクォーツの艶をまとった。

 まるで永遠の別れを決めたような口舌が、二人の間を行き来する。


 ややあって、業務に戻った伊澄の肩をすり抜けて、浩二が店を出ていった。


 里子は、金魚の餌を抱えて水槽に移った。



 三人の話を整理したところによると、一昨日、りつきは里子と別れたあと、伊澄にキスされたという。伊澄は酒に酔っていた。酔った弾みにりつきに好意を打ち明けて、翌朝になると何も覚えていなかったらしい。

 地下の萌香もりつきの唇を奪ったと聞く。

 あの時は、こんな風に胸に靄がかかったようなことはなかった。

 浩二の名前が出る度に、彼が店を訪う度に、里子の胸奥を満たしていた気休めをほじくって、凍てつかせるのと同じ靄だ。


 里子は、りつきに何を求めているのか。

 浩二という一人の男を突き落とし、惨めな姿を嘲笑いたいがために、りつきを利用しようとしているのか。それとも久しく覚えた感情が、里子にりつきを求めるよう命じているのか。



 極小の豆粒を水槽に散らすと、極彩色の金魚達が、水草の隙間を縫ってきた。
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