この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
飼育✻販売のお仕事
第17章 疼く想いを
「つか柚木さん。そろそろ仕事じゃない?」
「おおっ、わたくしとしたことが。……結野様。くれぐれも、お嬢様をお守り下さいませ」
「いや、さっきオレのこと信用出来ないって言ってなかった?」
「この馬鹿よりマシでございます。それでは」
三郎は、なかんずくりつきには慇懃に挨拶を済ませると、浩二を睨んで帰っていった。
休日スタイルの浩二の方も、退出の息差しを見せ始めていた。渋りながらも伊澄と友情を修復した彼は、りつきのいるウサギのケージに足を向けた。
「りんりん」
「ひゃあっ!……あ、王子」
「ごめん、驚かせた?」
「うん、ごめん……私の方こそ、ぼーっとしてて……」
りつきの顔色が、今朝初めてローズクォーツの艶をまとった。
まるで永遠の別れを決めたような口舌が、二人の間を行き来する。
ややあって、業務に戻った伊澄の肩をすり抜けて、浩二が店を出ていった。
里子は、金魚の餌を抱えて水槽に移った。
三人の話を整理したところによると、一昨日、りつきは里子と別れたあと、伊澄にキスされたという。伊澄は酒に酔っていた。酔った弾みにりつきに好意を打ち明けて、翌朝になると何も覚えていなかったらしい。
地下の萌香もりつきの唇を奪ったと聞く。
あの時は、こんな風に胸に靄がかかったようなことはなかった。
浩二の名前が出る度に、彼が店を訪う度に、里子の胸奥を満たしていた気休めをほじくって、凍てつかせるのと同じ靄だ。
里子は、りつきに何を求めているのか。
浩二という一人の男を突き落とし、惨めな姿を嘲笑いたいがために、りつきを利用しようとしているのか。それとも久しく覚えた感情が、里子にりつきを求めるよう命じているのか。
極小の豆粒を水槽に散らすと、極彩色の金魚達が、水草の隙間を縫ってきた。