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飼育✻販売のお仕事
第5章 採用祝いと王子になり損ねた王子〜浩二〜
…──お嬢さんを僕に下さい。
タキシードで決め、運命の人だと疑わなかった少女を伴い切願した馬沢浩二(うまざわこうじ)に、未来の義父は言った。
娘はやれん。
義父の隣ですましていた、未来の義母が続けた。
ごめんなさいね、これからもりつきと仲良くしてやって頂戴。…………
浩二がりつきと交際を始めたのは七年前、高校に入って二年目のクラスが同じになった初夏のことだ。
学生時分、浩二は少女漫画に傾倒していた。
話せる相手がいなかった中、りつきは稀少な同志だった。漫画を貸し合い、休み時間ごとに感想の交換や真似事に耽る内に、互いを意識し出したのである。
浩二くんって、○○に似てるね。
二人の最も気に入っていた連載漫画のヒロインの相手役を指して、ある時りつきが浩二に言った。
確かに浩二の容貌は、少女漫画に描かれる特性を含んでいた。やわで細くて中性的。卒業後、校則に囚われない長さにまで伸ばした髪を染色した時は、いよいよ少女漫画が憑依したのかと友人達がからかったほどだ。
件の漫画の最終話が世に送り出された新刊発売日、浩二は決断をした。
好きです。
例の相手役を気取った浩二に、りつきもまた、ヒロインを倣った。
大人になり、浩二もりつきも、少女漫画を離れた。だが、同じ趣味で馴れ初めた若い恋人達は、それなくしても話は尽きなくなっていた。
就職して四年が経つ。
浩二はディスカウントショップの店舗責任者を任された。りつきに見合う人間になり、実業家令嬢を不自由させないだけの力は蓄えられたはずだった。