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飼育✻販売のお仕事
第17章 疼く想いを
「店長」
もつれた音色に顔を上げると、閉まったはずの扉が開き、そこにパステルピンクのツインテールの少女がいた。
何を考えているか分からない。りつきの独特の雰囲気を、里子がもてあましていたのは初めの内だけだった。
里子自身に、もてあましている感情がある。
「ごめんなさい、聞こえちゃって……」
りつきがすじりもじり口を開いた。
「あの、私、違うと……思うんです」
「田口さんにお取置きでもさせておけば良かったんじゃないかって?」
「そうじゃないんです」
「…………」
「幸せは、稀少なんかじゃありません。私はそう思います」
「そうね。新崎さんには、そんな風に感じていてもらいたいわ」
「店長にもそう思っていただきたいです!」
今朝からりつきを惑わせていた何かが消散した。
パステルピンクの仔ウサギの目が、射抜くような眼差しで、里子をねめた。
「悲しいこと、辛いこと、思い通りにならないこと……たくさんあります。そういうのって、幸せの貯金だと思います」
「っ…………」
「毎日笑ってる人なんていない。だけどいやな思いをしている人は、幸せです。だって今楽しい思いが出来ないのは、その分、あとにそれが用意されているからなんです。お菓子は食べちゃったらそれで終わり。だけど、残しておいたら、あとで甘い思いが出来ます」
「消費期限、切れたら?」
「──……」
りつきが事務所に進み入った。診察台の脇を抜けて、里子の側に足を止めた。