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飼育✻販売のお仕事
第18章 魅惑の花はどこで啼く


「エッチ」

「え?」

「姉のアレの時を立ち聞きするんじゃありません」

「痛っ」

 啓吾の額を弾いた恵果の金色のラメを刷いた指先に、カールした短髪がじゃれついた。

「ストレスなら、あの子も同じ」

「…………」


 恵果は伊澄の母親との確執を知った。恵果の家族が円満であることを珍しがったデートの相手に、恵果の方から深入りしたのだ。

 Xジェンダー、肉体的同性愛、そして根本的な波長の相違──…缶詰め工場のごとく環境に閉じこもってきた彼女の母親にしてみれば、伊澄のような性格の娘は、概念に当て嵌まらなかったらしい。そのくせ理解しようとする。そうしたこじつけの愛情が、攻撃になった。


「とか言って、実は恋煩いだったりして」

「彼女、前の会社で失恋したばかりよ」

「どうかな。姉様、だとしたら今月二度目の失恋?」

「馬鹿言わないで。私、益口さんに失恋してないから」

「食事何回誘った?」

「……十二回」

「オーケーもらったのは?」

「──……。……ゼロ」

「ま、姉様のストレスは間違いなく失恋が原因だな」

「五月蝿い」
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