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飼育✻販売のお仕事
第18章 魅惑の花はどこで啼く
思えば母親の営む会社の従業員、益口こそ、恵果を伊澄と引き合わせた原因だ。
六月初めの「ふぁみりあ」でのあの宴の夜、恵果はすげない益口のために自棄酒を仰ぎ、偶然目にとまった従業員に絡んで泥酔した。
伊澄は格好良かった。十以上の歳の差は、関係なかった。
恵果は伊澄に益口という存在をほのめかし、その反応を楽しもうとした。
「そうだ、姉様。明日忙しいみたいだぜ。会計士の磯谷さんが来る。自分も今日は覗いてきたし、姉様も──…」
「そうなんだ。了解」
母親の会社を訪えば、また、恵果をやきもきさせる社員の姿をいやでも見かける。
だが、何分、恵果は大会社の令嬢とやらではない。
しがない中小企業社長の娘は、家業を常に把握して、今や古株にも引けをとらないキャリアを持つ。
「なぁ」
「ん?」
「磯谷さんって、新崎さん家に勤めてたんだっけ」
「大昔にね。家政婦さんにもレギュラーとパートがあって、パートしながら会計士の勉強をされたんだって」
「じゃ、りつきさんのこと、うっかり喋らないようにしないとな。あの新崎さんの親父さんのことだ。手当たり次第、訊き回っていらっしゃるかも知れない」
ややあって、香り高いラベンダーの香りが茶器の音色を連れて、恵果の鼻を掠めた。
恵果は家政婦を下がらせて、ティーポットを傾けた。