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飼育✻販売のお仕事
第18章 魅惑の花はどこで啼く
「お姉さんも昔はこの近くに住んでいらっしゃったようですよ。店長と同い年くらい……ちょっと年上さんかな。知的美人さんって感じで、物知りでした」
「井清さんは多趣味だもん。お父さんと一緒で、仕事もしないで一日中好きなことしてる」
「あはは、お茶目な人ー」
「新崎さんには敵わないんじゃない?」
「そっか、私、この間までお仕事してないんだった」
「お前もう忘れてんのかよ」
台帳を閉じた志穂がりつきを小突いた。
屈託なく笑う少女は、パステルピンクのツインテールも補翼して、まさしくウサギだ。志穂もまおも、りつきが入ってきた頃こそ彼女の採用に疑問を覚えていたようだが、今や一従業員として受け入れている。
里子は、この光景に何の疑問も覚えない。
人間など、機械的社会に隷従するだけの動物だ。支配するか、支配されるか。
どちらにも属しないりつきは、ともすれば里子の愛する小動物らに等しいのかも知れない。
「ところで、お姉さんの下の名前、何ていいましたっけ?」
「何だっけ。苗字で呼んでいたからなぁ。井清……えっと、井……清、……何とか……」
「っ…………」
「おい。お前ら姉ちゃんのペットの名前を覚えておいて、本人の名前知らねぇのかよ」
「だって志穂さんっ。ペットの名前は印象的だったんですもん。アルタイルなんて珍しくありませんか?」
「ロマンチックだよねー。アルタイルちゃん生きてたら、ベガちゃんと仲良しになってただろうな」
りつきが恍惚と息をつき、珍しく目をきららかせるまおに頷いていた。