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飼育✻販売のお仕事
第19章 甘い残り香



「なるほど」

 里子は最後のラインナップをりつきに渡した。地下二階、愛梨沙という名のメスだ。

「あ、タチさんも出品されるんですね。この時は従業員が裸になるんですか?」

「ううん。最初に新崎さんに地下の業務を教えた夕方、田口さんが着衣したままタチを躾けていたのは覚えている?あれは、こういう時のために役立つことでもあるの」

「そっか……」


 愛梨沙の写真とデータを置いて、りつきがスマートフォンを操作し出した。


 里子は人間の商品情報をファイルしたデータ帳を棚に戻して、スマートフォンからウェブページを見直した。



「お疲れ様。よく出来てたわ」

「有難うございます!」

「帰りましょうか」

 里子が扉に向かいかけた、その時だ。

「っ…………」

 椅子を抜け出たりつきの身体と里子のそれが、ぶつかった。

 里子の腕が、バランスを崩したりつきを抱きとめる。

「ぁわっ」

「ごめんなさい」

「いえ、有難うございます……」


 仔ウサギを離す。りつきは胸元に手をあてて、息を整えているようだった。


「──……」

 柔らかい。温度は低かった。


「あのっ、店長」

「まだ質問?」

「はい、あの……」


 それからすじりもじりと話し出したりつきの言葉を、里子は理解しかねた。

 当然だ。本人も理解しきれていないようなことを、聞き手が理解するには無理がある。


 ただ、今しがたの質感をもう一度、確かめたい。


 里子の深淵で、ただ一つの衝動だけが働いた。




 まるで生きる世界が違った。着飾ることに夢中に見えていた箱入り娘は、生きることにひたむきだった。


 りつきは、里子がある来し方の一点に落としていってしまったものを握っている。


 男は友人としても受けつけない。女は恐怖の対象だった。

 だのに里子は、りつきとだけは触れたがっている。
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