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飼育✻販売のお仕事
第5章 採用祝いと王子になり損ねた王子〜浩二〜
テーブルの食事も平らげた頃、りつきがプリンを取って戻ってきた。
三人、はかなしごとを続けながら、食後のデザートを始める。
「本当、嬉しいな。伊澄ちゃんとお仕事が一緒に出来る時が来るなんて、思わなかった」
「りんはセレブだもんな。任せとけ、怖い先輩がいても助けてやるから」
「ありがとぉ。あ、でも、従業員は店長含めて五人でしょ?今日いた先輩は優しそうだったし、大丈夫だよ」
「りんりん。それが社会は厳しいぞ。その五人目がスパルタとかね」
「ひぇぇぇ……」
「お前な、彼女を怖がらせんなよ」
伊澄がパステルピンクの天使を抱き寄せ、よしよし、と頭を撫でてあやしにかかる。
りつきの顔が、みるみるほぐれる。
ベリーショートの黒髪に、ユニセックスなパンツスタイル──…おまけに稀に見る長身と男も顔負けの男顔の友人は、屡々、浩二をやきもきさせる。外食中、店員が彼女をこそりつきの恋人と勘違いしたことも珍しくなかった。
「大丈夫だよ、王子。先輩が怖くても伊澄ちゃんが助けてくれるっ。それに私、自立するって決めたもん」
「りんりん、本当に家に帰らないの?」
「……あんな家、帰らない」
朗らかだったりつきの頰が、にわかにむくれた。
「私の服装にとやかく言っていた頃なら、百歩譲って許せたよ。だけど王子にあんなこと言うなんて、お母さんだって、横で笑ってたじゃない。あんな人達、親じゃない」
「りんりん……」
大学受験も受かれなかった馬鹿なディスカウントショップ店員と付き合わせるために、娘を手塩にかけてきたのではない。
それがりつきの父、真正(まさただ)の言い分だった。
かくてりつきは心を閉ざし、ここに厄介になることになったのである。