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飼育✻販売のお仕事
第19章 甘い残り香
あっと言う間の帰路だった。
里子はりつきを自宅のマンションの部屋に通した。
「わぁっ、女の人って感じのお部屋!」
「物がないだけでしょう」
「うーん。物がないっていうのでも、伊澄ちゃんとはまた雰囲気違うんですよね。スリッパはヒヨコさんだし、ソファも可愛いっ」
「どうも。ご飯、どうする?朝の残りしかないけれど……」
「何でも美味しくいただきます。朝の残りって何ですかぁ?」
「ポトフとおにぎり」
「おおっ、女子力!」
「お世辞を言っても何も出なくてよ」
里子はりつきをリビングに残し、キッチンへ場所を移した。
鍋を火にかけ、冷蔵庫に冷やしておいたおにぎりのラップを外す。それから急な来客に見栄を張れるようなものを探すと、密閉パックのささみのマリネが見つかった。デザートは、ココア味のパンナコッタだ。
「…………」
スマートフォンを拾い上げて、里子はメール画面を開いた。メール作成画面で自ずと動く指先は、志穂のアドレスを選択していた。
"新崎さんと一緒に帰ってきちゃった"
「…………」
ポトフの煮える音が、里子の指を送信ボタンに導いた。
あっ、と、声を上げる間もなく、送りあぐねていたメールが送信ボックスへと消えた。