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飼育✻販売のお仕事
第19章 甘い残り香
「店長が家政婦さんだった頃のお話、聞きたいです」
「──……」
「鈴花さんって、……どんな素敵な女性だったんですか?」
屈託ないりつきの目は、やはり小動物を彷彿とする。
無知の残酷。
あの少女と同じ刃が垣間見えていた。
「…………」
里子はドライヤーを置いた。
拾い上げた櫛を通しかけた時、パステルピンクの錦糸が歪んだ。
「っ、……」
甘い痛みが里子を襲う。
急激な痺れが頬を濡らした。こぼれた涙がまた一筋、里子の身体を軽くする。
夢を見たあとと同じだ。
「あ、わわ、店長、ごめんなさい。違うんです、私のわがまま……興味本位とか、そういうんじゃなくて……」
「違うのっ、これは……ちが……」
背を向けて、頬を拭う。
静かに流れた感情は、拭えば跡も残らなかった。
当然だ。胸裏は冷めきっている。諦念している。嘆いて変わるものではない。まして一番泣きたかったのは、鈴花の方だ。
鈴花を知るのは志穂だけだ。
どれだけ気を許した女にも、里子は話したことがない。鈴花を胸の奥に殺めておくこと、それが彼女を守れるなけなしの抵抗だった。
悪い女の人、死んで良かったわ。
令嬢と、彼女をとりまく家政婦達の残影が、今も里子をとりこめていた。…………