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飼育✻販売のお仕事
第20章 家庭訪問〜十四年前の扉が開く〜
「お嬢様。あとはこの三郎が、全て雑巾をかけさせていただきます」
「本当っ?」
「はい。ですからどうぞお嬢様はお部屋へ。さぁ、結野様はリビングの拭き掃除を。わたくしは玄関をやって参ります」
持つべきものは、友人より元執事かも知れない。
りつきが礼を述べかけた時、伊澄がりつきの腕を引いた。
「りん」
「ふぇっ?」
「良かったな。店長来るの夕方だし。柚木さん一人で十分だろ。飯行こ、飯」
「…………」
三郎に掃除用具を押しつけて、りつきは伊澄とマンションを出た。
昼時を過ぎた平日のカフェは、りつきらの他に客はいない。二人、ランチメニューを注文すると、引き攣った筋肉を労った。
「話した?」
サラダテイストのパンケーキを切り分けていたりつきの耳に、伊澄のアルトが差し込んだ。
「え?」
「店長のこと」
「…………」
里子の私宅に泊まった翌日、りつきは伊澄にことの次第を話した。誘導尋問に引っかかったと言うべきか。
母親の言いつけを破ってしまった。抗えなかった。
里子がりつきを求めていた中で、りつきこそ里子を求めていた。同性を、まして浩二ではない人間に愛慾をいだこうとはそれまで思いもしなかった。だのにりつきは拒めばいくらでも拒める状況下、なされるがままになっていた。
拍子抜けするほど呆気がなかった。
「…………」
「……王子によろしくって、言われたんだ」
「え?」
「──……」
りつきはパンケーキを飲み込むと、アイスティーを喉に流した。
「この前のは、私に免疫をつけさせるだけの訓練だったのかも。お仕事。はは、王子にバレたら、上司に悪戯されたって、言えば良いってことなのかな」
「…………」
里子は優しかった。
その優しさは、りつきを浩二から奪い上げようという血気もなかった。