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飼育✻販売のお仕事
第20章 家庭訪問〜十四年前の扉が開く〜
* * * * * * *
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ。どうぞ」
住所から調べた地図を頼りに至った部屋のチャイムを鳴らすと、伊澄が里子を迎え出た。
構えていた分、拍子が抜けた。里子はそれでも逸る胸を宥めながら靴を脱ぎ、框に上がった。
「…………」
とりたてて特徴もない、ごくありきたりな玄関だ。広々として見えるのは、りつきが話していたように、ものが少ないからだろう。
「店長、こちらです」
「あ、ええ……」
りつきは、おそらくすぐ前方の扉の向こうだ。里子がそう感知したのは、まもなく面談の開始時刻だからではない。
「……っ」
にわかに伊澄が足を止めた。
「……結野さん?」
「りんの──…りつきのこと、どう思っていらっしゃるんですか」
「…………」
恋人をもてあそばれでもした人間の目が、里子を無言で非難していた。
いつだったか、里子の覗いた鏡の中にも、こうした暗い目をした女がいた。ただ一つの愛だけに羈束された女の目。
「聞いたのね」
「隠し事はしない仲なので」
「…………」
嘘をつくことに罪悪感も感じない。伊澄の口調も、里子には聞き馴染みがあった。