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飼育✻販売のお仕事
第20章 家庭訪問〜十四年前の扉が開く〜
「私も聞いたわ。貴女が酔って告白したこと」
「覚えてないんですけど」
「そうね。酔った覚えはないでしょう」
「──……」
「伊澄ちゃーん。里子さんまだ──…あっ、里子さん!」
里子の視界にパステルピンクの影が触れた。
扉から顔を半分出して、りつきが手を振っていた。
「お疲れ様。部屋、綺麗ね。わざわざ掃除してくれたの?」
「わぁっ、分かっちゃいました?」
「床磨きの匂い、そこら中からするもの。有難う」
「いえ、さぶちゃんにも来てもらって、三人でしましたので」
面談とは名ばかりだ。
三人、リビングのソファに落ち着くや、芸術的なケーキを各々選び出し、紅茶の感想を交換した。ケーキは例の執事が買い寄せたらしい。里子と伊澄がりつきを先に選ばせると、無邪気な仔ウサギは予想に反せず、苺のムースが大半の層を占めたものを選んだ。
りつきに関しての情報は、不足ない。
里子は伊澄と人間売り場に関する話を済ませたあと、歓談の場に居座った。
「あ。水切れてた」
「あったよー。私、行く」
「いや、いい。りんは座ってろ」
「ううん、見たもん。お茶くらい淹れられるから伊澄ちゃんこそ座ってて」
伊澄とりつきが揉め出したのは、三人分のカップが空になった頃のことだ。
「水道は?どうせ火を通すのだし」
「ウチ、蒸留水出ないんです」
「とにかく私、行ってくる」
「まじでいい。りん、店長の相手しておいて。店長だってオレが相手より、君の方が良いはずだ」
「っ、……」
りつきの顔色が一変した。
読み取れない表情は、聡子の胸が刹那音を立てたのに似通う気色を主張していた。
扉が閉まった。それからすぐ、玄関の方でまた一枚、扉の開閉する音が聞こえた。