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飼育✻販売のお仕事
第20章 家庭訪問〜十四年前の扉が開く〜
二本足の生命体は、小動物など比べ物にならないまでに、飼われる資質に長けている。不羈を厭い、そのくせ口先だけは自由だのアイデンティティだのを称えている。
いっそのことその本能に従えば良い。
人身売買、「ふぁみりあ」のVIP会員に向けた営業は、脱法だ。
だが、その行為こそ里子からすれば正当で、快楽でもある。道徳に倣う義理はあっても、法にかしずく義務はない。
自然がこの世を形成した頃、今の法など存在したか。問うまでもない。いつの時代、どこの国でも、一部の人間の都合に合わせて定められる。
身を売ることを望んでいる人間が、陳列ブースに並ぶというシステムは、接客する役目を持つ販売員が、にこやかに洋服を客に勧めるのと同じことだ。
里子は鈴花の記憶の欠片と、あるべき現実に閉じこもりたいがために「ふぁみりあ」を立ち上げたのだ。
「──……。……りつき」
里子の手が、ひとりでにりつきの膝に落ちていた繊手をとった。
小さいのに柔らかで、マシュマロのごとくほのかなしとりを含んでいる。いつまでも触れていたいりつきの手は、里子の遠い記憶をくすぐる。
「鈴花の話……聞いてくれない?」
「良いんですか、……」
「貴女こそ、良い?」
「里子さんの愛された方でしたら、私も好きになると思います」
「…………」
「お顔は知らなくても、お姉さんみたいに、お慕いすると思います」
「──……」
鈴花のことを誰にも話さなかったのは、彼女を守るためではない。
別離しても尚、恋人の顔を気取っていたかった里子の自尊心がそうさせていた。里子は自分を守りたかった。鈴花の記憶を紐解いて、いつかの令嬢のような言葉が耳に入るのを怖れていた。
人間が理解し合うなど、不可能に等しい。不可能に等しい世界の中で、傷つかないで生きてゆくには、嘘に嘘を塗り固めるより他になかった。さもなくばまことまで潰えされる。
だが、りつきは別だ。里子の怯えに寄り添って、得体の知れない安らぎに包む。