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飼育✻販売のお仕事
第20章 家庭訪問〜十四年前の扉が開く〜


「里子さんは、私のこと……どう思っていらっしゃいますか」

「……りつきは、どうなの」

「──……。分かりません」

「彼と幸せになりたくて、ここで居候しているのよね」

「…………」

 はい、と、か細い声が、里子の耳をやおら撫でた。

「頑張って」

「…………」

「りつきが笑っていなければ、調子、狂ってしまうから」

「…………」


 ただひととき、側にいてくれればそれで良い。

 こんな面倒な女のために、りつきの生涯を無駄にすることはない。


「里子さん、待って下さいっ、……ほんとは私──…」


 りつきが身を乗り出した、その時だ。


「待って下さいおじさん、今面談やってて──…」

「旦那様!お許し下さいっ、今日ばかりはこの三郎、旦那様を通しませんぞ!」

「邪魔だっ、どけ。娘はどこだ、どこにいる!」

「っ…………」


 りつきの血相が変わった。その行動は早かった。里子はりつきに気圧されて、ぬいぐるみに紛れて部屋の隅に息を潜めた。


 恋人でもない里子がそうせねばならなかった理由は、まもなく分かった。

「帰って!お父様なんか大嫌い!」

「帰らん!オーナーが来ているのかっ、話をつけてやる。……新崎の娘ともあろうお前がペットショップで労働など、けしからん。世間に顔向け出来んではないか」

「旦那様、お言葉ながら、旦那様のお嬢様に対する厳しさは愛情ではなく、我欲です」

「柚木、お前が娘をこんなにしたのだ。そんな乱れた格好ばかりしよって……影響を受けて、娘までおかしなやつになったではないか」

「おかしいのは旦那様でございます!」

「結野さん、と、いったかね」

「……ご無沙汰してます」


 りつきと父親、そして三郎の紛紜は、伊澄にまで差し響いていった。
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