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飼育✻販売のお仕事
第21章 生贄
「里子」
「…………」
りつきの潤みをこねくりながら、志穂が顔を控え場に向けた。
里子は片手を仕切りの骨組みに預けたまま、首を横に振る。
これは、返報だ。やりきれない感傷を宥めたいがための、里子が鈴花の痛みを請け負うための、不毛な儀式だ。
りつきという安らぎを、遠ざける。
里子は控え場から適当な玩具を選び出した。仕切りの向こうで起きていることを見て見ぬ振りをしていた従業員に、それらを差し出す。
「……どうしろと?」
「行って」
「断ります」
「貴女だって、彼女のために傷ついたはず」
ディルドとローター、それからクリップやら催淫剤やらの器具を、里子は伊澄に握らせる。侠気な容姿のにしてはたわやかなその手を包み込み、耳許にやおら息を吹きかける。
「あの子は、不幸の根源。周囲がどれだけ苦しい思いをしているか、想像することも出来ないの。私はりつきを知っていた。昔から」
「っ…………。本当なんですか?」
「大切な人を、……侮辱された」
「──……。そこまでして、オレにりんをなぶらせたいんですか」
「嘘じゃないわ。証拠に、彼女の実家の内部構造、答え合わせしてみましょうか」
「…………」
庭の四季を彩る草花も、広大な屋敷の内部も、りつきの私室の家具の配置も──…多少の変化はあるにせよ、里子はかつていた場所について、りつきと親しい伊澄を納得させられるくらいには知悉している。
「新崎さんを、好きなんでしょう」
「そうですね。貴女よりは……彼女を大切に思っています」
だが、その想いは里子をしのいで無下になっている。
里子は伊澄を憐れんでいた。それで採用したというのに、その実態は、前職を解雇された理由とやらにも優って惨めなものだ。