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飼育✻販売のお仕事
第21章 生贄
* * * * * * *
「あすこまでやるなんて、聞いてなかったぜ」
りつきの世話を終えた友人は、診察台に座り込むなり批判的な目を向けた。
見方によっては男前、だが大半の人間は萎縮する志穂の風采は、そのくせ繊細な心魂が節々からほの見える。今も、シャギーの茶髪の影差す頰を飾った目は、里子を咎めていながら決して見捨てない気色があった。
「……許せないの」
「あいつが?」
「──……」
十四年前の不運は、里子から全てを奪い上げた。
鈴花の消息も掴めないで、ただ信憑性に十分な噂は里子に里子を慙愧させるだけの要素があった。それでも家政婦を続けていたのは、真新しい場所へ向かえなかったからだ。あの場所には志穂もいた。鈴花が一人で消えたあとも、里子は一人になることを拒んでいた。
そうした折、愛らしい令嬢に悪魔が憑いた。
里子は里子に潜んでいた黒いものを、あの令嬢に転嫁した。
「筋違いだって分かってる。あの頃のりつきは、……鈴花と私の関係を、知らなかった」
「──……」
「彼女には彼女の辛さがあった。だけど私は、そうするしかなかった。子供の無邪気さだって分かってても、心ないあの言葉を恨むしかなかった。そうしなくちゃ、あの屋敷を出られなかった」
りつきが里子の前に現れて、里子はまた彼女に惹かれた。敬遠しながら、今度は新崎家の令嬢だと知らないで、理由のない安らぎに溺れかけていた。
だが、りつきはりつきでしかない。
罰だった。鈴花を忘れて嚮後に向かいかけていた罰。
「志穂」
「んあ?」
「田口さん達の話していた井靖さんという女性。……鈴花に似てるわ」
「…………」
「あの日、買い物に出かけていて良かった」