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飼育✻販売のお仕事
第22章 疑惑〜不実の赤心〜
* * * * * * *
朝の業務をしていた途中、恵果が人間売り場に見えた。
伊澄は回収したばかりの食器をワゴンに積んで、八時間振りの友人に定型的な挨拶をした。
「昨日の今日に出勤なんて、結野さんも大変ね」
「シフトなので」
「様子を見に来たのだけれど、必要なかった?」
「様子……ですか?」
「貴女が落ち込んでいたら、いくら店長でも一発殴っておこうと思って」
「ご冗談を」
陳列された人間達には目もくれないで、恵果は伊澄の前に足を止めた。
夜遊びをした直後でも、レイヤードの茶髪に映える艶肌は、今日もみずみずしい粒子を湛える。とても三十代後半の女の体質とは信じ難い。恵果の挑発的なまでの双眸が、凄艶に伊澄を見澄ましていた。
「新崎さんって、あの新崎家のお嬢さんなのよね」
「らしいですね」
「ここに来たこと、間違っていたかも」
「え……?」
「彼女の屋敷にいた家政婦さんの話、聞いたことはある?」
伊澄の指に、恵果のそれが絡みつく。フレグランスを連れた体温が、伊澄を撫でるエアコンの冷気を些か遮る。
得意げな話を披露する時の、彼女の癖だ。