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飼育✻販売のお仕事
第22章 疑惑〜不実の赤心〜
恵果の話は、いつだったか伊澄も小耳に挟んだ風聞に似通っていた。
家長の愛人を寝取った家政婦。二人はあるじにも秘密で愛し合った末、引き裂かれた。
多岐に渡る噂話は、もはや真偽が見極め難い。
一致していたのは、家政婦の顔かたちが里子に似ているといったところだ。
「あの噂が本当なら、貴女達の雇用主、可哀想だけど根深いものを抱えているわ」
「──……」
「行方不明と噂の女性も、どこかへ逃げたようだし。……あ、これは秘密ね。父の知人に、例の折檻に参加した方がいるの。朝になって告訴されることを懸念した一人が、彼女に引っ越しの費用を渡したと話していたらしいだけで……」
りつきから聞いていた話に辻褄が合う。そして、昨夜の里子の言い分が、伊澄の脳裏を掠めていった。
「…………」
行方不明の女は、自殺の噂が根強いらしい。
新崎のあるじにしてみれば、好都合だったというわけか。
伊澄には理解し難い。不倫関係にあった二人ではない、里子がだ。
愛だの恋だのというものの終焉は、所詮こういうものだ。伊澄が身をもって理解している。
されど、あれだけの未練を引きずりながら、里子からは諦念しか感じない。りつきを愛したのでないのであれば、何故、女を捜索しないのだ。