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飼育✻販売のお仕事
第22章 疑惑〜不実の赤心〜
りつきは、三郎の昔話を聞いていた。
三郎はりつきが物心ついた頃、既に屋敷にいた。それでいて目尻に齢を刻んだ元執事をとりまく切迫、やるせなく翳った顔色は、にわかに何十年も前を追想してのものとは思い難い。
「それからわたくしは、縁あって新崎家にお世話になることとなりました。お嬢様がお生まれになったのは、わたくしが勤めて七年あとのことでございます。お嬢様は奥様、旦那様、使用人の者達に、大変可愛がられておいででした。わたくしも同様です。しかし、今ですから申し上げられますが、辛うございました」
「辛い……?」
「お嬢様のご成長ぶりが、亡くした息子に重なったのです」
「──……」
りつきは寝具を抜け出していた。
寝間着にくるんだりつきの身体は、けだし昨日の朝と同じだ。
丈夫なものだ。人間とは、不可視の衝動に脆い分、物理的刺激には屈強なのか。
三郎は続けて語った。
生まれも容姿も性別も違う。されど赤ん坊の頃から親しんできた令嬢は、三郎の目に、亡き男児の生まれ変わりとさえ映ったらしい。
三郎はりつきを守ることを胸に誓った。しがない執事に大それた思いをお許し下さいませ。奇抜なスーツを着込んだ男には、りつきの憐憫を誘うだけの情緒があった。