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飼育✻販売のお仕事
第22章 疑惑〜不実の赤心〜
「この上で、お嬢様。お願いがございます」
沈痛だった三郎の顔が、にわかに締まった。
「茅中様と……いえ、あの女と縁を切って下さいませ」
「どう、いう……」
「思い出しました。いえ、「ふぁみりあ」について調べさせていただきました。茅中様の行為は犯罪です。それでなくてもお嬢様の身に何かあったらと思いますと、わたくしは夜も眠れません」
「さぶちゃんっ、……そのこと……」
「それに、彼女は新崎家に勤めていた元使用人です。お嬢様に多大な恨みを持っている可能性も……否めません」
「だからどういう──…」
心外だった。
新崎家に仕える家政婦。真正の部下や運転手達も含め、りつきには彼らとの穏やかな思い出しかない。恨みを買った覚えはなかった。
「っ…………」
違う。
りつきの脳裏を真新しい残影が横切った。
(私は彼女と付き合っていた。だけど彼女は、ある男とも付き合っていた。…………)
いつかの里子が話していた。
里子が家政婦を辞めた理由。それが不実な男に折檻を受けた恋人が紐づいていたとすれば、りつきには心当たりがある。
母親から真正を奪った女を疎んだ。りつきに注がれていた愛情を取り上げた女を憎んだ。
りつきは、真正が人知れず飼い馴らしていたという女にかなしみの矛先を向けていた。
消失してしまえば良い。願っていた矢先、天はりつきの肩を持った。
無邪気だった子供心は、手当たり次第、舞い上がる胸から溢れるものを振り撒いた。
…──悪い女の人、死んで良かったわ。
「っ、…………」
あの言葉を里子が聞いていたとする。
幼かったりつきは、浩二をとやかく酷評している三郎達より心なかった。