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飼育✻販売のお仕事
第23章 全てを理解することは難しい


 伊澄が休憩から戻ると、志穂は里子のエプロンを外した。

 狼狽える里子の腕を引いて、志穂が向かったのは小さなカフェだ。


 小路に潜んだ個人経営店は、昼時でも里子らの他に客一組いただけだ。

 里子の味覚を既知している志穂は、友人の意見も確かめないで注文すると、あっけらかんとお冷やを飲んだ。


「店、結野さん一人よ。地下にお客様がお見えになったら……」

「昨日がっつり儲けたんだ、ノンプログレム」

「そういう問題じゃないわ」

「毎日インスタントばっか食ってる里子を心配しての、あたしの厚意だ。食生活の乱れは思考まで辛気臭くなるぞ」


「…………」



 伊澄と恵果の話を聞いてしまった。

 昨夜のイベントで空きブースになった檻をチェックするべく、今朝、地下へ降りた時のことだ。


 恵果は伊澄を気に入っている。彼女が「ふぁみりあ」を訪ねる根拠は、今やペットの餌の調達か、伊澄に会うためになっているくらいではないか。

 りつきの実家は、なかんずく財界で名が広い。恵果の家とも交流があったのだろう、十四年も前のスキャンダルが、彼女の耳にも入っていたようだった。

 そして里子から見ても悩ましげな唇は、伊澄にまことしやかな風聞を注いだ。
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