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飼育✻販売のお仕事
第23章 全てを理解することは難しい
里子は鈴花のことを話さなかった。
世間は彼女を、富豪を手玉にとったたおやめと呼ぶ。真正を昔から知る彼女の過去も知らないで、面白可笑しがれる側面だけを取り上げる。
鈴花を貶められることは、里子にとって恐怖だった。
だが、里子には、りつきの両親や伊澄の家族にも優って利己的なところがある。
鈴花の生存を信じなかったこと──…。
彼女が生きていたとする。さすれば、真っ先に里子の許へ駆けつけてくる。
それが里子の知る鈴花だ。里子の求めた鈴花の心だ。
鈴花の世界に里子がいられないくらいであれば、家政婦らの無責任な噂を鵜呑みにしている方がましだった。
「自分勝手だわ。どこで間違ったのかしら。……ううん、私は正しい。飼われるのが大好きで、醜くて、穢い。そうでなければ、人間じゃない」
「そこまで悔いてんなら、新崎に謝ってくれば?」
「──……」
「それか、田口に頼んで、井靖って女を呼び出してみろよ。春日さんでも協力してくれそうじゃん。実際、彼女かどうか分かんねぇし。あの時、あたしもいなかったんだよな」
「…………」
二人分のランチプレートが運ばれてきた。
朗らかな店主は里子らに定型的な愛想を残し、店の奥へ戻っていった。