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飼育✻販売のお仕事
第23章 全てを理解することは難しい
* * * * * * *
りつきが軒先を飛び出すと、淡い色素の青年がいた。
「王子……っ」
浩二より、りつきの方が驚いていた。
「ふぁみりあ」に務めてから、予期せぬことが立て続けに起きていた。以前は一日でもその面影を思い描かないことのなかった浩二を、りつきはとうとう失念していたのである。
「ごめん、どっか行くとこだったかな」
「えと、……」
「結野ちゃんにメールもらって。行ってやれって言われたんだけど」
「伊澄ちゃんが?」
りつきは逸る胸を窘めにかかる。
昨夜の伊澄に他意はなかった。
就眠間際の夢が夢でなかったとすれば、伊澄は摯実に謝罪して、りつきに付き添っていた。
伊澄は「ふぁみりあ」の裏の業務に慣れている。あのあとの里子の算段を伊澄自身聞かされていなかったことからしても、彼女にしてみれば業務の一環に過ぎなかった。むしろりつきがなるべく痛がらないよう配慮していた。
伊澄が浩二を呼んだのは、けだしりつきが最も信頼している男だからだ。
「そっか。王子、今日お休みだったっけ」
「いや、仕事……だけど、りんりん具合悪いんでしょ」
「え?」
「結野ちゃんが抜けて来いって言うくらいだし、余程のことだと思ってたんだ。熱は下がった?」
「あっ、待っ──…」
浩二の手が額に伸びた。
りつきはごつごつした手のひらから頭をよける。
「大丈夫。風邪とかじゃないんだ」
「顔色悪い」
「大丈夫」
「──……」