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飼育✻販売のお仕事
第23章 全てを理解することは難しい
* * * * * * *
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
「また明日なっ」
原色の明かりの滲んだ夜闇に、まおの後ろ姿が薄れていった。
里子も志穂と並んで駅へ向かう。
葉月も残すところ二日だ。そこはかとなくちらつき出す新涼は、未だ蒸せるような暖気に消える。夏の終わりのもの悲しい息差しが、里子の胸を吹き抜けてゆく。
「あいつ明日来るかな」
「──……」
「ま、里子は気にせず休んどけ。結野さんと田口とあたし。日曜っつっても辺鄙だ。三人いれば回るだろう」
「…………」
りつきを泣かせた。あの一件は、誰の目から見ても里子が非道だ。
里子が里子のやり場のない衝動を慰めたかったがために、りつきから反撥の精気も奪い上げた。無邪気な心身は壊れる寸でのところまで虐げた。
躊躇いながらも愛していた。
一方通行だったにせよ、憎いという感情さえ、あの清澄さに怯える胸裏を理由づけんとしたこじつけだった。
鈴花を忘れないで生きてゆく。彼女一人、最後まで安らかな場所にとりこめることの出来なかった里子には、他人と添い遂げる資格はない。戒めてきた。
りつきは、音もなく里子の戒めをたゆませた。
これではいけない。一週間前の週末の──…あの安らぎに溺れ込んでいてはいけなかった。…………