この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
飼育✻販売のお仕事
第23章 全てを理解することは難しい
志穂と別れて電車に揺られた。土曜日の夜というのに車両はどこも満席だ。酒を引きずった老若男女が、我が物顔で帰路に着いていた。
「っ…………」
半日振りの私宅に至るや、里子は幻覚に慄いた。
「あっ、……」
幻覚の方は、緊張した面持ちを心なしか明るめた。
「──……」
「里子さん……」
「何しに来たの」
「ごめんなさい」
「──……」
「謝って済むことじゃないって、分かってます。ろくでなしでした。お父様より、もっともっと、私がずっとろくでなしでした」
「…………」
「淋しかったんです。八つ当たりだったんです。後悔したって鈴花さんが帰ってきてくれるわけじゃない……分かってるけど、それで里子さんまで苦しめてたなんて……里子さんの大事な人に、酷いこと……私だったんですね。里子さんが、……あの時の、……」
…──髪を結ってくれた家政婦さんだったんですね。…………
りつきの腕が、里子に絡みついていた。
今にまた大粒の涙をこぼしかねない仔ウサギは、この世の終焉にでもまみえた風に震えていた。