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飼育✻販売のお仕事
第23章 全てを理解することは難しい
三郎だけが、真正の心根を知っていた。
井靖鈴花。
真正の囲っていた小鳥は、彼の幼馴染みだった。実家が近く、人知れず愛し合う仲だったという。
葛藤が真正を追いつめていた。政略結婚だったにせよ、歳月が、真正を彼の細君に──…りつきの母親に情を移させていたからだ。一人娘は彼にとって珠だった。
だが、裕福な男の傲慢は、初恋の女の不実を認めた途端、理性を絶やした。鈴花が家政婦の一人と肉体関係を結んだことを知った真正は、彼女を田舎の別荘に連れ込んで、集団で彼女を暴虐した。
鈴花の消息は絶えた。
真正にとって都合が良かった。善良な家長に返り咲くことが出来たからだ。
「旦那様は、不器用でございます」
「何?」
「お嬢様がご心配なのでございましょう。わたくしも旦那様の全てを正しいとは申せません。しかし、旦那様のお嬢様を想われるお気持ちはよく分かります。旦那様は今もこうして、お嬢様の生活の邪魔にならぬよう……こんなところでお嬢様のことを考えておいででした」
「……散歩に来ただけだ」
「車で四十分もかかるこんな住宅街に、ですか」
「──……」
月明かりを見上げるあるじからは、とても娘や恋人を力でねじ伏せたがる身性が感じられない。さしずめ哀れな迷い人だ。
りつきがいなくなって三ヶ月、顔にこそ出さなくても、真正には耐え難いものがあったのかも知れない。