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飼育✻販売のお仕事
第24章 だから貴女だけが奇跡



「おやすみなさい。りつき、ベッドの方が慣れてるわよね。私はリビングで寝てくるから」

「あっ、……」


 りつきの顔色が一変した。

 だが、里子に忖度の義務はない。


「待って下さいっ、里子さん」

 里子の腹に、りつきの腕が巻きついた。背中にうずもれた質感は、白い頬を愛らしく染めていた少女の胸だ。

「私って……、里子さんの……──何ですか」

「…………」

「従業員ですか。それとも、昔の職場にいたどうしようもないガキ?……ただの憎い女、……ですか……」

「どれもそう。だけど、どれも違う」

「…………」

「何も分かりたくないし、分かられたくない。貴女を愛せる保証はない。りつきの身体に興味があったの。……ここで貴女を抱いたのは、それだけ」

「…………」

「りつきは、他人に愛されたくもないと考えているような女の側に、何の疑問も持たないでいられるの?」

「愛することがご迷惑なら、ただお慕いしております」

「鬱陶しくなったら、今度は昨夜程度では済ませないかも」

「泣いたくらい……怖くて悲しかったです。でも、私が痛い思いをするだけで、里子さんが癒されるなら……それも良いかな、って」…………


 どこまでもめでたい令嬢だ。


 りつきが里子を見限らなければ意味がなかった。

 清らかな肉体を打ちのめす。そうして彼女の無垢な双眸が見つめる幻想さえ崩壊してこそ、里子は救われていただろう。


 だのにりつきは自ら懐柔を選ぶ。従って、従わせるよう仕向ける。


「馬沢くんとやらが悲しむわよ」

「──……」

「私のために、彼を諦められるの?」

「…………」

 無理です、と、か細いソプラノがささめいた。

「それでも好きです。里子さんが、……必要です」

「──……」


 里子は、腹で交差したりつきの両手に手のひらを重ねた。


 二度と縁を持つことはないと思っていた。鈴花と共に、新崎家の令嬢はこの世界から消えていた。

 りつきとだけ、十四年という歳月を経て巡り逢えた。




 …──だから貴女だけが奇跡。
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