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飼育✻販売のお仕事
第25章 親友
「ここまで生きてると、恋愛が全てではないと……今なら本気で思えるわ」
「里子が?」
「志穂だって動物かぶれじゃない」
「あたしは昔からそうだし。けど、……」
手近な小皿を持ち上げて、里子は小鳥の展示してあるコーナーへ移る。
「里子は幸せになるべきだ」
「幸せよ」
その存在を確かめたことはなきにせよ、不幸ではない。
「志穂とお店して、田口さんみたいに話せる従業員だっている。りつきに再会出来て良かった。結野さんとも、いつか田口さんくらいには親しくなれれば良いと思うわ」
「…………」
「こんな幸せ、子供じみてる?」
「いや、……」
指に留まりかけた小鳥をよけて、里子は籠の扉を下ろした。
怯える対象もなくなった。
小さな令嬢のあの一言が、里子を桎梏していたものの真相だった。けだしあの令嬢が、鈴花と二分していたもう一方の、里子の全てだったからだ。
里子は、よりによってりつきに秘めていた来し方を打ち明けたいと思った。
りつきには、里子を知りたがるだけのおおらかさが備わっていた。
「なぁ、里子、あたしはお前に──…」
狭い間口から二人連れの客が見えた。
老齢の女と男だ。度々キャットフードを買い求める、常連の夫婦連れである。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「ごめんなさいね、お仕事中に。いつものあるかしら」
「はい、こちらに……」
「お、こちらの金魚、綺麗だな」
「ちょっと見せて下さいね」
婦人と紳士は、結局、キャットフードだけを抱えて帰っていった。
「志穂。さっき何か話そうとした?」
「何のことだ?」
「…………。ううん、気の所為」
まただ。里子は、今までにも何度も志穂の声の空耳を聞いた。
思いつまった志穂の顔。
だが、次の瞬間には頼り甲斐のある友人に戻っている。