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飼育✻販売のお仕事
第25章 親友
* * * * * * *
遅番のあとは里子の私宅で世話になり、休みは浩二の定時を待つ。りつきが里子と浩二を行き来するようになって、二週間と少しが過ぎた。
街は、新学期のムードが覆っていた。
残暑を縫う新涼が、もの寂しい木の葉をそよがす。
「ただいま」
里子と就業時間の入れ違った夕まぐれ、りつきは半日振りの私宅に戻った。
忙しなげな物音が、軒先にまで差し響いていた。伊澄が部屋を掃除していたのだ。
「お帰り。お疲れ」
「うん」
「何か飲む?」
「ううん。それより手伝おうか?」
「良いって。りんが住むまで一人でしてたし。ってか、オレも休みたいからやっぱお茶しよ」
りつきが部屋にバッグを置きに戻ると、襖の向こうで湯沸かし器の音がし出した。
壁一面の色とりどりのワードローブに囲まれて、角などとっくになくした部屋の隅のぬいぐるみ山に、背負っていたウサギのリュックサックを下ろす。
この子、りつきに似てるわ。
帰り際、里子はりつきを店先まで送り出し、両手を握って背中のウサギの頭を撫でた。
「…………」
りつきは、スマートフォンも入ったままのリュックサックの頭を撫でる。
里子の手のひらの質感は、当然、残っていなかった。