この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
飼育✻販売のお仕事
第25章 親友
「伊澄ちゃんって、春日さんとまだ会ってる?」
くすんだミルクティーの水面から、甘酸っぱいフレーバーが漂っていた。
苺の着香葉の紅茶は、ミルクをとかすと、さしずめ砂糖を抜いたショートケーキだ。エアコンのしみた両手を温め、昼間の業務で張りつめていたりつきの肉体をやわらげる。
「会ってるよ」
「だよね」
少し前、りつきは伊澄にキスされた。あのあと一人、悶々とした夜を過ごしたものだが、翌朝伊澄が弁解するまでに気が付くべきだったのだ。
「ふぁみりあ」に入ってからというもの、伊澄が女として話題に上げる人物は、もっぱら恵果だ。
初めこそ、りつきは恵果に怖ろしいイメージをいだいていた。
極悪非道なVIP会員の一人が、従業員にまで目をつけた。
伊澄の話は、りつきの良からぬ先入観を払拭した。恵果を話題にしている時の親友は、羨むまでに眩しい。ただ一つの気がかりを除いては。
「恵果さんって、お母様の会社の社員さんを好きなんだっけ」
「益口さんな。全く相手にされてないって、しょっちゅう愚痴を聞かされてる」
「伊澄ちゃんにしてみたら、有利なんだ」
「どういうこと?」
「好きじゃないの?春日さんのこと」
「あ、そういう対象に見たことはなかった」
「えっ……」
雨に打たれる窓ガラスを眺めながら、「今日は良い天気だね」──…りつきにとって今の伊澄の反応は、天気を見誤る人間と同等くらいには不可解だった。