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飼育✻販売のお仕事
第25章 親友





「伊澄ちゃんって、春日さんとまだ会ってる?」


 くすんだミルクティーの水面から、甘酸っぱいフレーバーが漂っていた。

 苺の着香葉の紅茶は、ミルクをとかすと、さしずめ砂糖を抜いたショートケーキだ。エアコンのしみた両手を温め、昼間の業務で張りつめていたりつきの肉体をやわらげる。

「会ってるよ」

「だよね」


 少し前、りつきは伊澄にキスされた。あのあと一人、悶々とした夜を過ごしたものだが、翌朝伊澄が弁解するまでに気が付くべきだったのだ。

 「ふぁみりあ」に入ってからというもの、伊澄が女として話題に上げる人物は、もっぱら恵果だ。

 初めこそ、りつきは恵果に怖ろしいイメージをいだいていた。

 極悪非道なVIP会員の一人が、従業員にまで目をつけた。

 伊澄の話は、りつきの良からぬ先入観を払拭した。恵果を話題にしている時の親友は、羨むまでに眩しい。ただ一つの気がかりを除いては。


「恵果さんって、お母様の会社の社員さんを好きなんだっけ」

「益口さんな。全く相手にされてないって、しょっちゅう愚痴を聞かされてる」

「伊澄ちゃんにしてみたら、有利なんだ」

「どういうこと?」

「好きじゃないの?春日さんのこと」

「あ、そういう対象に見たことはなかった」

「えっ……」


 雨に打たれる窓ガラスを眺めながら、「今日は良い天気だね」──…りつきにとって今の伊澄の反応は、天気を見誤る人間と同等くらいには不可解だった。
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