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飼育✻販売のお仕事
第25章 親友
ドンッ……ドンッ!!ガンッ!!…………
シャッターを殴る異物の音は、秒ごとに程度を増す。
「急患でしょうか」
「わざわざ志穂に?そういう資格は持っているけれど、いくら近所でも病院へ行くでしょう」
「──……」
里子はまおを更衣室に残して小動物売り場に出た。
白々しいまでに明るい白熱灯と小動物らの気ままな嚶鳴、鼻に馴染んだ獣臭が、閉店後の売り場の凄寥を強調していた。
表口のシャッターを開けると、もの寂しい、それでいて肌に馴染んだ売り場の気配に黒曜石の艶を含んだ新涼が吹き込んだ。
それと同時に、里子にはしなくも悪寒が襲った。
夜陰に立っていたのは、自信と風格に満ち溢れた大柄の男だ。
男は、里子の記憶にいたよりも、些か齢を重ねていた。
「久しいな」
「っ…………」
四時間前に別れた少女が里子の脳裏をやおら掠めた。
新崎家との縁を絶って、十四年が経っていた。財界ではその権勢を思いのままに振るうような実業家が、いち家政婦に過ぎなかった女を今更訪ねる根拠は一つだ。
「娘を返してもらおうか」
「今は、いません」
「そうか。まぁどきなさい。りつきに会う前に、お前に話しておくことがある」
「話すことはありません」
「今中にいるのは、小葉志穂や田口まおといったところか?」
「何故……っ」
招かれざる訪問者は、里子の疑問を紐解いた。
二週間前、何者かが真正にりつきの居場所を知らせた。その人物は、里子の経歴、それから「ふぁみりあ」の知られざる側面を既知していた。真正は「ふぁみりあ」に関する情報を集め、更には物的証拠が整うまで、ここを静観していたのだという。